
デイサービスでは、食事も大切なサービスのひとつです。単にお腹を満たすだけでなく、栄養管理や利用者同士の交流、自立支援といった視点から準備を整える必要があります。またデイサービスの運営に関わる方は、食事に関する届出の有無や施設基準など、細かいルールが気になるも多いのではないでしょうか。
本記事では、デイサービスの食事に求められる役割から運営上のルール、よくある疑問までをわかりやすく解説します。利用者の満足度が高く、安心安全の食事を提供する方法が気になる方は、ぜひご一読ください。
筆者

野田晃司
作業療法士/マーケティングライター国家資格取得後に病院へ勤務し、介護事業を行う企業へ入社。立ち上げたデイサービスが、わずか10ヶ月で登録者数100名超えるほどの人気施設に。施設のInstagramフォロワーが40万人を突破。現在は、マーケティングライターとしてセールスコピーやSEO記事の執筆をしつつ、デイサービス運営について講演会やセミナーで登壇している。
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デイサービスの食事に求められる役割

デイサービスの食事には、単に栄養を補給するだけでなく、周囲の利用者との交流や自立を促す役割があります。こうした役割を考慮しつつデイサービスで提供する食事を検討すると良いでしょう。ここでは、デイサービスの食事に求められる役割について詳しく解説します。
栄養バランスの良い食事を摂る
デイサービスにおける食事の大きな役割の一つが、栄養バランスの整った食事を食べてもらい、利用者の健康を支えることです。
利用者のなかには、自炊できずに出来合いの食事ばかりを食べている方や、一人暮らしで食事の栄養管理ができない方もいます。また、自宅で食事が摂れていても、加齢や体調の変化で食欲が落ち、栄養が偏りがちなケースもあります。
利用者の背景をふまえ、健康状態や持病に配慮した献立を提供することは、デイサービスの食事の重要な役割です。デイサービスでの昼食やおやつの時間が、日々の健康を取り戻す貴重な機会になります。
食事を通して交流する
デイサービスの食事には、栄養補給だけでなく交流する場としての役割もあります。自宅では一人で黙々と食べていた方も、デイサービスでは他の利用者と一緒に食卓を囲み、自然と会話が生まれます。
また、和やかな雰囲気で食事を楽しむことは、食欲の向上にもつながり、結果として健康促進にも効果的です。気の合う仲間と笑いながら食事を摂る時間は、心の栄養にもなる大切な機会です。デイサービスでの食事には、そうした交流の場を提供する役割もあります。
食事の自立を促す
デイサービスにおける食事は、単に栄養を補うだけでなく、利用者の自立を促す重要な役割も担っています。たとえば、自分で箸を持って食べたいものを口に運ぶという一連の動作を促すことは、身体機能や認知機能を刺激し、生活動作の維持・向上に効果的です。
またデイサービスで魅力的な食事を提供することで「自分で食べたい」という意欲が生まれ、自己決定や自発的な行動を引き出すきっかけにもなります。食事を通して生まれる感情の揺れ動きが、日常生活の自立支援に直結していくのです。
デイサービスで提供される食事の特徴

デイサービスで提供される食事では、利用者ごとに適切な食形態を用意することや、食事環境に配慮することが大切です。通常の食事と特徴が異なるため、事前に理解したうえで食事の準備を進めましょう。ここでは、デイサービスで提供される食事の特徴について詳しく解説します。
利用者に合わせた食形態を用意する
デイサービスの食事は、利用者一人ひとりの状況に合わせた食形態で提供する必要があります。
デイサービスには、加齢により咀嚼力や嚥下機能が低下している方や持病による食事制限がある方など、利用者ごとに抱える食の課題が異なります。そうした個々のニーズに対応するため、施設では常食やきざみ食、ソフト食、ミキサー食など複数の形態を用意し、栄養士や介護スタッフが適切に提供しなければいけません。安全で美味しく食べられるように、施設全体で工夫することが大切です。
自力で食べる環境を整える
デイサービスには、利用者の自立支援を促す役割もあるため、 自分で食べられるように工夫されていることも特徴です。
たとえば、利用者のなかには手がうまく動かせない、姿勢が安定しないなどの理由で食事が難しい方も少なくありません。そうした場合でも、専門スタッフが姿勢を調整したり、補助具を用意したりすることで、自力での食事できるように支援します。
食事は、他人に食べさせられるよりも、自分の手で食べることでより美味しく感じます。介助は最小限にとどめ、本人の力を引き出すことが生活の質(QOL)や満足度を高めるためにも重要なのです。
多種多様なメニューを用意する
デイサービスで提供される食事は、栄養バランスだけでなく、利用者に「食べたい」と思わせる工夫をすることも大切です。そのため和食や洋食、中華など、ジャンルを問わず彩り豊かで味に変化のあるメニューを提供すると良いでしょう。
また、季節の食材や行事にちなんだ料理を取り入れることで、食事を通して季節の変化や楽しさを感じられるようになります。盛り付けや器選びにもこだわり、見た目の美しさも追求すると利用者の食欲も向上します。
デイサービスで食事を作る場合の人員配置

デイサービスで食事を調理・提供するには、最低限「食品衛生責任者」の配置が必須とされています。この責任者は、栄養士や調理師などの専門資格を持っている方か、所定の講習を受けた方に限られます。一方、実際に調理を行うスタッフの配置は義務ではなく、介護スタッフが兼任することも可能です。
さらに、栄養管理を強化したい施設では、管理栄養士を任意で配置するケースもあります。事業所の方針に応じて、必要な人員体制を用意しましょう。ただし、外部に委託した食事を提供する場合は、人員配置の基準等はありません。
役割 | 資格 | 配置 | 人数 |
食品衛生管理者 | 必要 | 1名以上の配置が義務付けられている。栄養士、調理師などの専門資格、または食品衛生責任者養成講習を修了した者が該当する。 | 1名以上(必須) |
管理栄養士 | 必要 | 配置義務はない。しかし、配置した方が健康管理に配慮した食事を提供できる。 | 1名以上(任意) |
調理スタッフ | 不要 | 必須ではありませんが、配置することでより質の高い食事提供が可能です。介護職員が兼務することもできる。 | 1名以上(任意) |
デイサービスの食事に関する施設基準

デイサービスで食事を提供するには、一定の施設基準を満たすことが求められます。具体的には、食堂と機能訓練室を合わせて利用者1人あたり3㎡以上の広さが必要です。狭い空間での食事はストレスや事故の原因となるため、ゆとりのあるテーブル配置にすることが重要です。また調理場を設置する場合は、飲食店営業に関するルールと同様、法律に準じた環境を用意する必要があります。
設備名 | 基準 |
食堂 | 食堂と機能訓練室を合わせて、利用者1人あたり3㎡以上の広さが必要。 |
調理場(施設内で調理する場合) | 飲食店営業の基準に準じる。区画を独立させること、手洗い設備の設置など。 |
参照元:厚生労働省「施設基準の全体像」
デイサービスでの食事提供に必要な届出

食事を外注する場合、保健所に届出をする必要はありません。しかし、デイサービス内で調理して食事を提供する際は、保健所への届出が必要になるケースがあります。届出をせずに食事を提供した場合、行政から改善命令や営業停止を受けることもあり、万が一事故が発生すると施設の責任が重くなるため、届出が必要な条件に該当するか確認しておきましょう。
とくに注意すべきなのは、「1か月以上継続して調理する場合」や「週1回以上、1回の食事で20食以上を提供する場合」です。これは昼食だけでなく、朝食や夕食でも該当します。また、1人の利用者に3食提供すれば、それぞれを1食としてカウントします。保健所へ届出が必要になる条件は、以下のとおりです。
参照元:厚生労働省「食品衛生法」
デイサービスで提供する食事のよくある疑問

各デイサービスによって食事の特徴は異なります。食事の料金やカロリー計算、持ち込みなど、気になる方も多いのではないでしょうか。ここでは、デイサービスの食事に関する疑問について解説していきます。
食事代はいくら?
デイサービスを利用する際、多くの方が気になるのが食事代の金額です。デイサービスは介護保険サービスですが、食材費や調理にかかる費用は保険適用外なので、すべて自己負担となります。
一般的には、1食あたり500円〜700円程度が目安ですが、事業所によって差があります。事前に料金体系を確認しておくと、安心して利用を始められます。
必ず食事を提供しなければいけない?
デイサービスでは、事業所の判断で提供しないことも可能です。たとえば、3時間程度の短時間サービスを提供するデイサービスもあり、食事を提供せずに帰宅するケースもあります。これからデイサービスを利用する予定の方は、事前に利用する時間帯と食事の提供についても確認しておきましょう。
食事を外注しても大丈夫?
デイサービスでの食事提供は、施設内で調理せずに外部業者へ委託(外注)することも可能です。実際、多くの事業所が配食サービスや給食センターなどを利用しており、衛生管理や人員確保の負担を軽減しています。
ただし、外注の場合でも、保管・配膳の管理は施設側の責任になるため管理マニュアル等を準備しておきましょう。また、施設内で調理しないため、保健所への届出が不要になるメリットがあります。
カロリーを計算したメニューを出してくれる?
デイサービスでは、利用者の健康状態に配慮してカロリーを計算したメニューを提供している施設もあります。とくに持病を抱える方や、食事制限が必要な方にとって、カロリーや栄養バランスへの配慮は重要です。
ただし、すべての事業所に管理栄養士が配置されているわけではないため、施設によって対応の有無が異なります。カロリー管理が必要な場合は、事前に施設へ確認し、必要に応じて食事内容を相談しておくと安心です。
食事の持ち込みはできる?
デイサービスでは、原則として施設側が提供する食事を利用するのが基本ですが、持ち込みは各施設の判断に委ねられています。そのため、利用者の体調や食事制限、アレルギーなどの事情によって持ち込みを許可している施設もあります。一方で、食中毒防止や衛生管理の観点から、持ち込みに制限を設けている事業所もあるため、事前に施設へ相談しておきましょう。
調理訓練は届出が必要?
デイサービスで行う「調理訓練」や「調理レクリエーション」は、単発的な活動であれば、原則保健所への届出は不要とされています。ただし、1か月以上継続して実施する場合や調理したものを不特定多数に提供する場合は、飲食の提供とみなされ、届出が必要になる可能性があります。届出の必要性は、実施内容や頻度によって異なるため、事前に保健所へ相談しておくと安心です。
デイサービスの食事は安全と満足度の両立が大切
デイサービスの食事は、栄養を補うだけでなく、交流や自立支援の手段としても重要な役割を果たしています。そのため、ただ食事を提供するだけでなく、イベントや季節感も織り交ぜながら安全に食事を楽しめる環境を作ることも重要です。
また、施設で調理する場合は、人員配置や施設基準、保健所への届出といったルールも遵守しなければなりません。事前に条件を確認して、万全の体制を整えましょう。