
自宅で介護を頑張っている方にとって、大きな負担になりがちな入浴介助。
「できれば、入浴だけでもデイサービスを利用できないか?」と考えるご家族も多いのではないでしょうか。
入浴のみを目的にデイサービスを利用することは可能です。しかし、施設によって対応が異なるポイントや、ケアマネジャーとの調整が必要な場面も多いため、事前に注意点を理解しておくと、よりスムーズにデイサービスを利用できます。
本記事では、入浴のみを目的にデイサービスを利用する方法や注意点について解説します。
筆者

野田晃司
作業療法士/ライター国家資格取得後に病院へ勤務し、介護事業を行う企業へ入社。立ち上げたデイサービスが、わずか10ヶ月で登録者数100名超え、稼働率80%以上をキープし続ける。事業所で立ち上げたInstagramのフォロワーが40万人を突破し、テレビや新聞など各メディアから取材を受けるほどの施設に成長。現在は、ライターとしてセールスコピーやSEO記事の執筆をしつつ、デイサービス運営について講演会やセミナーで登壇している。
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デイサービスは「入浴のみ」で利用できるの?

デイサービスの入浴支援のみを利用することは可能です。デイサービスのなかには、入浴特化型や半日型の事業所もあり、利用の目的に応じて適切な事業所を選択すると良いでしょう。ただし、基本的に要支援の方は入浴支援を受けられません。入浴支援を希望する場合は、事業所スタッフに相談しながら慎重に検討しましょう。
入浴のみの利用は可能
デイサービスは、入浴のみ利用することも可能です。介護保険では、必要な支援に応じて部分的なサービス利用が認められており、入浴のみを目的に利用するケースもあります。
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社が実施した調査「通所系サービスにおける入浴介助のあり方に関する調査研究事業報告書(令和4年)」によると、通所介護(デイサービス)で最も多く算定されている加算が「入浴介助加算(Ⅰ)」で、90.3%の事業所が算定していました。
このことから、デイサービスを利用する方のなかでも入浴支援のニーズが高く、それに応えるためほとんどの施設が入浴支援をしていると言えるでしょう。
出典:「通所系サービスにおける入浴介助のあり方に関する調査研究事業報告書(令和4年)」みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
入浴特化型・半日型デイサービスという選択肢もある
入浴支援に対する高いニーズに応えるため、デイサービスのなかには、入浴に特化した「入浴特化型デイサービス」や、短時間で利用できる「半日型デイサービス」などがあります。各施設の特徴は以下のとおりです。
項目 | 入浴特化型デイサービス | 半日型デイサービス |
---|---|---|
利用目的 | 入浴支援がメイン | 短時間ケアや機能訓練、入浴支援など |
主な対象者 | 自宅での入浴が困難な方 | 短時間の介護を受けたい方 |
メリット | 目的が明確なので利用がスムーズ | 機能訓練なども充実している場合がある |
デメリット | 入浴支援以外のケアが充実していない場合もある | 入浴設備が充実していないこともある |
入浴特化型は、個浴や機械浴を備えた施設が多く、入浴支援に特化しているのが特徴です。一方の半日型は、短時間のケアを希望する方が利用する施設で、入浴支援を提供している施設もあります。
どちらの施設も、介護保険制度上で定められた施設形態ではなく、実際の支援内容は各施設によって大きく異なります。入浴支援を目的にデイサービスを利用する場合は、実際に見学して相談しながら利用を検討しましょう。
要支援でも利用できるのか
デイサービスを利用できるのは、原則として要介護1〜5の認定を受けた方です。そのため、要支援の方がデイサービスで入浴支援を受けられる可能性は低いでしょう。
ただし、各自治体が実施している「介護予防・日常生活支援総合事業」で指定を受けている事業所であれば、要支援の方もデイサービスを利用できます。さらに、何らかの理由でデイサービスの入浴支援を受ける必要性があるとケアプラン上で位置付けられた場合は、入浴支援を受けることも可能です。
とはいえ、基本的に要支援の認定を受けている方は、自宅での入浴は可能と判断されている可能性が高いため、デイサービスで入浴できる可能性は低いでしょう。
また、事業所側の意見として、仮に要支援の方に対して入浴支援を行ったとしても、加算等はありません。そのため、要支援者への入浴支援は、サービスで特別に対応してくれる場合がほとんどです。そうした実態も踏まえて、施設スタッフと利用者ご本人(またはご家族)で、どこまで支援すべきか話し合う機会を持つと良いでしょう。
入浴のみを利用する際の料金

入浴のみのデイサービス利用を検討する際には、利用時の費用を事前に把握しておくことも重要です。ここでは、介護保険が適用される費用と、自費負担となる費用の相場について詳しく解説します。
介護保険が適用される費用
デイサービスを入浴のみで利用する場合、介護保険が適用されます。入浴支援のみでデイサービスを利用する際には、基本報酬に加えて入浴介助加算が加わった料金になります。基本報酬の単位数は、以下のとおりです。(通常規模型の場合)
要介護度 | 3~4時間未満|基本報酬 | 4~5時間未満|基本報酬 | 5~6時間未満|基本報酬 | 6~7時間未満|基本報酬 | 7~8時間未満|基本報酬 |
---|---|---|---|---|---|
要介護1 | 370単位 | 388単位 | 570単位 | 584単位 | 658単位 |
要介護2 | 423単位 | 444単位 | 673単位 | 689単位 | 777単位 |
要介護3 | 479単位 | 502単位 | 777単位 | 796単位 | 900単位 |
要介護4 | 533単位 | 560単位 | 880単位 | 901単位 | 1023単位 |
要介護5 | 588単位 | 617単位 | 984単位 | 1008単位 | 1148単位 |
上記の単位数は、デイサービスの基本料金のようなもので、さらに入浴介助を実施すると入浴介助が追加されます。入浴介助加算の単位数は、以下のとおりです。
- 入浴介助加算(Ⅰ):1日につき40単位
- 入浴介助加算(Ⅱ):1日につき55単位
また、実際には各施設で他の加算を算定している場合もあるため、加算等の詳細は各施設に直接問い合わせると良いでしょう。
介護報酬は、1単位10円で計算され、自己負担額は収入などの条件によって1〜3割で設定されています。そのため、1割負担の方は「単位」をそのまま「円」に換算して計算すると利用料金がわかります。
たとえば、要介護2の方が入浴介助加算(Ⅰ)を算定しているデイサービスを4時間利用した場合、算定単位数は480単位(基本報酬440単位+入浴介助加算(Ⅰ)40単位)となります。自己負担割合が1割であれば、1回利用ごとの自己負担額は480円で、週3回利用した場合は月額5760円です。
自己負担になる費用
デイサービスを利用する場合、基本報酬や入浴支援の費用は介護保険が適用されますが、一部介護保険の適用外になる費用もあります。介護保険が適用されない費用で、代表的なものは以下のとおりです。
- 昼食代:1食あたり500円〜700円
- 日用品費(シャンプーなどの入浴用品など):1回あたり50〜200円
- 教養娯楽費(レクリエーション材料費など):1回あたり100〜300円
上記費用は、あくまで一例です。どのような費用を自己負担で徴収すべきか、ある程度介護保険制度上で決まっているものの、実際に徴収する内容や金額は、各施設ごとに異なります。自己負担額について詳しく知りたい方は、実際に施設へ問い合わせることをおすすめします。
入浴のみでデイサービスを利用する手続きの流れ
デイサービスを利用する際には、まず要介護認定を受けていなければいけません。そのため、まずはお近くの市区町村役場窓口で、要介護認定の申請手続きをして認定調査を受けましょう。調査の結果、要介護認定を受けた方は、以下の手順でデイサービスを利用できます。
①ケアマネジャーに相談する
本人や家族の希望を伝え、「入浴だけ利用したい」と明確に伝えましょう。
②見学や面談をして利用施設を決定する
入浴設備や衛生面、送迎の有無などを確認します。
③ケアプランに入浴支援を組み込む
介護保険を使うためには、ケアプランに明記する必要があります。
④担当者会議を実施して利用契約を結ぶ
重要事項説明書などを確認し、契約書に署名します。
⑤初回利用(入浴支援開始)
デイサービス利用時にバイタルが問題なければ、安全に配慮して入浴が行われます。
実際には、利用者や家族の状況、施設の都合などで手続きの順番が前後する場合もあります。とくに問題がなければ、上記の手順で利用が開始するので事前に確認しておきましょう。
デイサービスの入浴支援を利用するメリット

デイサービスの入浴支援を利用する最大のメリットは、自宅での入浴が困難な方でも安全に入浴できる環境が整っていることです。専門スタッフが介助を行い、個浴や機械浴など設備も充実しているため、転倒や事故のリスクを軽減できます。
また、デイサービスで入浴する分、家族による入浴介助の機会が減り、介護者の負担を軽減することも大切な目的のひとつです。さらに、入浴を通じたコミュニケーションやリフレッシュ効果により、利用者の精神的な安定や生活の質(QOL)向上にも効果的です。
デイサービスの入浴を利用するデメリット

デイサービスで入浴支援をする場合、事前にデメリットも把握しておくことで、利用後のトラブルを回避できます。ここでは、デイサービスで入浴支援を受けるデメリットを確認しておきましょう。
デイサービスで入浴支援を受けている場合、体調不良や感染症の流行などで、急に入浴が中止になる場合があります。予定が急に変更されてしまうため、余計に家族の負担が大きくなってしまうこともあるでしょう。
また、入浴時間が限られているため、ゆっくり入浴したい方は物足りなさを感じることもあります。さらに、施設によっては同性介助が選べなかったり、清掃が行き届いていなかったりするケースもあります。利用前の見学や担当者会議で入浴環境について説明を受け、事前に確認しておくとスムーズにデイサービスでの入浴支援を受けられるでしょう。
入浴支援が可能なデイサービスを選ぶ際のチェックポイント

デイサービスを選ぶ際には、事前に施設との相性を確認しなければ、利用を開始してから後悔する場合もあります。とくに、入浴を目的にデイサービスを利用する場合は、浴室の環境やプライバシーへの配慮、スタッフの雰囲気などを確認しておきましょう。ここでは、入浴支援が可能なデイサービスを選ぶ際のチェックポイントについて詳しく解説します。
浴室は清潔に保たれているか
入浴支援が可能なデイサービスを選ぶ際は、まず施設の清潔さを確認しましょう。浴室や脱衣所の清掃状況、カビやぬめりの有無などは、見学時にしっかりチェックすることが大切です。
とくに、注意しなければいけないのは「レジオネラ属菌」です。レジオネラ属菌とは、水中に存在する最近の一種で、高齢者などの免疫力が低下している方が感染するとレジオネラ肺炎などを発症するリスクがあります。
温泉などの施設は、レジオネラ属菌の検査が義務化されていますが、高齢者福祉施設は環境衛生関係法令の適用を受けていないため、レジオネラ属菌の検査に関する法的な義務がありません。自治体ごとに運営指導で確認されますが、見学の際に浴室の清掃が行き届いているかチェックしておくことも大切です。
多くのデイサービスでは、水質検査を実施しています。施設内にレジオネラ属菌の検査済証が掲示している場合もあるので、見学の際に証明書を確認するのも良いでしょう。
個浴設備があるか

個別の入浴を希望する場合は、個浴設備があるかも重要なポイントです。施設によっては、大浴場で一度に複数人が入浴することもあります。
大浴場で他人と同じお風呂に入るのが嫌な方や、プライバシーを重視する方は、個浴対応の有無が入浴支援の満足度を大きく左右します。安心して利用するためにも、事前見学で浴室の環境や設備を確認しましょう。
プライバシーへ配慮されているか
入浴支援を受けるうえで、同性介助やプライバシーへの配慮があるかは重要なポイントです。浴室は自分の裸を他人に見られる場所でもあるため、デイサービスのなかでも「とくにプライバシーへの配慮が必要な場」と言っても良いでしょう。
そのため、施設によっては同性介助を徹底していたり、カーテンや仕切りでプライバシーを守る工夫をしていたりする場合があります。また、声かけや介助の仕方にも配慮が感じられる施設は安心です。事前見学の際には、介助の体制やプライバシーへの配慮について具体的に質問しておくと良いでしょう。
スタッフと相談しやすい雰囲気か
入浴支援を目的にデイサービスを利用する場合、スタッフとの相談のしやすさも重要なポイントです。たとえば、入浴支援では「恥ずかしがって入浴を拒否する」「皮膚トラブルがあるので対応に気をつけてほしい」といった個別の配慮が必要なケースも多くあります。
気軽に相談できる雰囲気がある施設では、こうした要望にも柔軟に対応してくれる可能性があるでしょう。一方で、相談しづらい雰囲気のある施設を利用すると、家族が困った際に柔軟に対応してくれない場合もあります。見学時には、職員の受け答えや説明の丁寧さ、家族とのコミュニケーションの取り方をチェックしておきましょう。
経営者向け|「入浴のみ」の相談を受けたときの対応とは

入浴支援に特化していないデイサービスが「入浴のみを利用したい」と相談を受けた場合、まずは利用者の介護度や希望を丁寧にヒアリングし、サービス提供が可能かを判断することが大切です。
たとえば、寝たきりで特殊浴槽がなければ入浴できない方や、重度の心疾患を患っている方などは、自事業所の設備で対応するリスクが高い場合もあります。その場合は、無理に受け入れずに、ケアマネジャーと相談して別の選択肢を検討することも大切です。
ただし、自事業所でも対応可能な場合は、積極的に受け入れると良いでしょう。共働きが増加している現代では、施設での入浴ニーズがさらに高まっていくことが想定されます。できるだけ利用者の要望に応えることは、地域から選ばれる施設づくりにつながります。
まとめ|入浴のみでもデイサービス利用も検討しましょう
入浴介護は、身体的な負担が大きいため、多くの方が家庭内での介助に難しさを感じてしまいます。自宅での入浴介助に限界を感じた際には、無理に自宅介護を続けるのではなく、介護職による安全で清潔な入浴支援を活用することが大切です。
入浴介助のサポートを受けたい場合、デイサービスで入浴介護だけを利用することも可能です。まずはケアマネジャーや地域包括支援センターに相談し、入浴支援が受けられる施設やサービス内容を確認してみましょう。
また、要介護者の入浴支援ニーズは今後も拡大していく可能性があります。デイサービス経営に携わっている方は、積極的に入浴介護の希望者を受け入れ、地域から選ばれ、喜ばれる施設作りを進めましょう。