デイサービス利用者同士のよくあるトラブル事例|悪化を防ぐ具体的な対処法

デイサービスで最も多いのが利用者同士のトラブルです。認知症による誤解や女性間の人間関係の対立、身体的な接触事例まで、ご家族の不安は尽きません。この記事では、具体的なトラブル事例と、スタッフによる真摯な対応、安心して通所するための対策を解説します。

デイサービスで利用者トラブルが起きる背景

デイサービスには日々多くの人が集まるため、人間同士が関わる以上、時にはトラブルが起きることもあります。特に利用を検討しているご家族や、現場で働くスタッフにとっては、「どんなトラブルが起きるのか」「施設側はどのように解決するのか」を知っておくことが、安心して利用を続けるための鍵となります。

デイサービスで発生するトラブル事例として、比較的多いのは以下の3つです。

  1. 利用者さん同士の人間関係のトラブル
  2. 送迎に関わるトラブル
  3. 利用料に関するトラブル

このうち、最も多いのが利用者さん同士のトラブルであり、お互いの行き違いによってケンカに発展してしまうケースが時折聞かれます。本記事では、特に解決が難しいとされる利用者同士のトラブルに焦点を当て、具体的な事例と施設側の適切な対応策をご紹介します。

デイサービスで発生する利用者トラブルの具体的パターン

デイサービスにおける利用者同士のトラブルは、個人の性格や生活習慣の対立だけでなく、認知症の症状に起因するもの、さらには身体的な被害に発展するものまで多岐にわたります。ここでは、元介護スタッフが直面した具体的な事例に基づき解説します。

女性利用者間で起きやすい「人間関係の対立」と構造化された問題

高齢者が集まる場所において、男性に比べて、女性の方が人間関係のトラブルに巻き込まれる確率が高い傾向があると感じるスタッフもいます。

コミュニティの「ボス化」による支配的なトラブル

少人数のデイサービス(定員10名など)で、利用者10名のうち8〜9名が女性という環境で発生した事例です。その中心となっていたのが70歳になったばかりの利用者Yさんでした。Yさんは他の利用者と比べて頭の回転が速く、ゲームや工作でいつもトップの成績を収めていたため、気づくと女性利用者のボスと化していました。

Yさんは、入浴やトイレの順番を一番にするよう仕向けたり、ときには「〇〇さんの席はあちらにした方がいい」などと他の利用者の介護方法に対しても口を出すようになりました。また、「こんなゲームはくだらないから、やらないようにしましょう」と他の利用者を巻き込み、レクリエーションをボイコットするようなこともありました。Yさんが機嫌を損ねて1日中黙り込むと、デイサービス内の空気も重くなり、介護職員は対応に困り果てていました。

新しい利用者の出現による人間関係の再構築

そんな状況の中、新規の利用者Iさんが通所することになりました。Iさんは誰にでも丁寧に接し、物腰が柔らかく、凛とした強さを持つカリスマ性のある女性で、すぐにデイサービスの女性陣の心を掴みました。

今までYさんを取り巻いていた他の女性利用者たちは、一斉にIさんのほうに行ってしまいました。結局、他の利用者たちはYさんの機嫌を損ねないように一緒にいただけの関係だったのでしょう。Iさんがボスになろうなどとは思わず普通に過ごしていたにもかかわらず、周りがYさんを恐れなくなったおかげで、デイサービスは本来の姿を取り戻しました。その後、YさんもIさんの影響を受けたのか、以前のような横柄な態度が見られなくなり、誰もが楽しく過ごせるデイサービスに戻ったとされています。

認知症の症状に起因する「誤解」と「喧嘩」

デイサービスには認知症の利用者が通所することもありますが、症状の変化や記憶の混乱が、他利用者との思わぬトラブルに繋がることがあります。

記憶の混乱が招いた「デイサービス退所騒動」

見た目からは認知症だと気づかれないほどお話も上手で上品な利用者Sさんは、日によって症状が変わる認知症を患っていました。ある日、Sさんは親しい利用者Mさんに、「来週には自分の家に帰る(デイサービスを辞める)」という話を冗談でしました。

この話を信じたMさんは、Sさんに挨拶をするために非利用日に家族と共にデイサービスに訪れるという騒動に発展しました。介護職員は、Sさんがデイサービスをやめる予定がないこと、帰る家など他にない状況であることをMさんの家族に伝えました。職員はSさんの認知症の病名を伏せましたが、Mさんは「どうしてそんな嘘をついたのか」と怒りつつも、「来週も会えるならよかった」と納得して帰宅しました。

誤解からくる「嘘つき」の応酬と仲たがい

後日、普段通りデイサービスに来たMさんは、Sさんの顔を見てどうしても文句を言いたくなり、「Sさんの冗談をまんまと信じてしまったわよ」と声を掛けました。しかし、Sさんにはその話をした記憶がなかったため、「何の話?」「嘘つき!」「どっちが嘘つきなのよ」と口論に発展し、大喧嘩になってしまいました。

介護職員が間に入って話をしましたが、Mさんの方はわだかまりが残ってしまい、以前のようにSさんと過ごすことはなくなってしまいました。Sさんは喧嘩をしたこと自体を忘れて変わりなく過ごしていましたが、このケースは、認知症の利用者への対応の難しさと、一人ひとりの症状や性格に合わせた対応が必要であることを痛感させる事例となりました。

重度の認知症利用者による「身体的な接触」のトラブル

利用者同士の行き違いから、身体的な怪我に発展するシビアな事例も報告されています。

この事例では、軽度の認知症がある利用者Yさんがデイサービスを利用中、重度の認知症の女性利用者がYさんの腕を掴み、右腕に引っ掻き傷ができてしまいました。この重度認知症の利用者は、独語や暴力行為があるため、普段は職員がついて見守りをしていました。

トラブルが起こったのは、その担当職員が「用事があって離れた際」でした。すぐさまYさんのご家族に連絡し、状況を報告し、報告書として謝罪文を記載し送迎時に手渡しましたが、翌日、Yさんの娘さんから「デイサービスに母を通わせることに不安を感じる」とケアマネを通して相談があり、Yさんは一時的にデイサービスの利用を休止することになりました。

トラブル発生時の適切な対応とリスクマネジメント

デイサービスでトラブルが発生した場合、施設側には、事態の収束と再発防止に向けた迅速かつ誠実な対応が求められます。

1. 人間関係・ケンカに対するスタッフの役割

人間関係やケンカといったトラブル対応は、スタッフの手腕が最も問われる部分です。

  • 仲介とメンタルケアの徹底: トラブルが起きた際は、スタッフが利用者の間に入って仲介し、しっかりとコミュニケーションを取ってメンタル面のケアをすることによって解決する場合が多いです。
  • 個別事例に応じた対応: 人を相手とする介護はマニュアル通りにはいきません。上記のSさんとMさんの事例のように、たとえ認知症が原因であっても、利用者一人ひとりの症状や性格、背景に合わせた対応が必要となります。もしスタッフが気付かないトラブルを見かけた場合は、遠慮なくスタッフへ知らせることで対応が可能です。

2. 身体的トラブルを防ぐための報連相の徹底

身体的な怪我に繋がるトラブルは、職員間の連携ミスや油断から生じることがあります。他利用者の怪我や不安を防ぐための厳格な見守り体制が不可欠です。

職員間の「報連相」と見守りの徹底

「少し物を取りに行くだけ」「少しお手洗いに行くだけ」という**「少しだけ…という認識」がトラブルを招く一番の要因**になります。

  • 重度認知症利用者がいる場合は、自分がその場から離れる際は、必ず別の職員に一言伝えてから動くよう、職員の報連相を徹底し、協力して見守りを行うことが重要です。

家族への迅速な報告と謝罪

もしトラブルが発生し、他利用者に怪我を負わせてしまった場合は、すぐに利用者のご家族へ連絡し、状況を報告することが求められます。対応者の中では、報告書として謝罪文を記載し、ご家族へ手渡すといった対応が実施されています。

3. 利用料などシビアな問題への対処法

送迎時の利用者さんがデイサービスに行くのを渋る問題や、利用料に関する問題など、少しシビアなトラブル事例も時折聞かれます。

利用料に関するトラブルについては、現場スタッフだけでなく、ケアマネージャーなどの専門スタッフがご相談に応じます。個々の事例に応じた解決策を提示できるため、遠慮なく相談することが推奨されています。

まとめ:トラブルを恐れずにデイサービスを有効活用するために

デイサービスという人間が集まる場所では、どうしても様々なことが起きますが、問題が起きても解決する方法はたくさんあります。

トラブル事例ばかりが注目され「デイサービスって怖い、大変そう」と思われてしまうかもしれませんが、多くの施設では利用者同士で良い関係を築き、デイサービスが生きがいになっている人も多くいます。

もし利用者本人が困ったことや不安なこと、あるいはスタッフが気づかないトラブルを見かけた場合は、早めに介護職員に相談し、トラブルを回避することが大切です。スタッフを信頼し、安心してデイサービスをご利用ください。

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